文学

OL二人の恋愛話(後編)

「○○さん(同僚のほかの女性?)は、あまりそういうの気にしないタイプと言うか…」

Aさんと話したいのに、会話に○○さんが割り込んでくる、みたいな出来事があったのだろう。社内の他の女性の”○○さん”が恋愛に無頓着な方のようで、そのせいで「私」とAさんとの恋は進展しないのだ、と彼女は言いたいらしい。おそらく自身の鬱積した恋愛感情のやり場のなさを、社内の「気が利かない」女性である○○さんに責任転嫁して精神的に解決してしまおうとしている、いわば恋愛でのリスクを一切とらない安定志向である。そんな彼女の恋愛への向き合い方は安直といえば安直だが、会社内という限られた中で悶々と恋愛感情を抑えつづけている女性の境遇を思うと、私の心は少し同情に傾いた。会社以外で、出会いはないのだろうか…。

会話相手の女性は、話に相槌を打ちながら、とくにアドバイスをすることもなく…本当に他愛のない、何の解決もない現状維持の恋愛話といった感じだった。お昼のOLのランチトークには、このくらい軽くて浅い”恋バナ”こそ相応しいのかもしれない。拍子抜けするほど刺激の少ない恋愛話に、私の心は一切乱されることなく、話を聴きながらも目の前の鯖の味噌煮定食の味覚に集中しきれたほどである。

隣の女性二人はいつの間にか食べ終わり、立ち上がって会計をしはじめた。私の視線の先には、店内に設けられた僅か二、三段の小階段があった。そのため、私が少しばかり目線を移せば、去っていく女性二人の姿を確かに見ることが出来るはずだった。

Aさんに対しては”推し”に徹するという、恋愛弱者と思われる女性ははたしてどんな容姿・容貌をしているのか?私の低俗な好奇心は著しく騒いだが、見知らぬ女性を凝視するのもどうかと思いなおし、結局、階段へ視線を這わせるのはやめにした。机上の定食に視線を落としたままの私には、気になる女性の容貌は全く、分からずじまいであった。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です