文学

OL二人の恋愛話(前編)

ある日の昼、お洒落な定食屋へ独りで行った。
もともとあった古民家を改造して店舗にしたという、外観からして女子が好みそうな定食屋である。

何故そんな所に男一人で出向いたかと言えば、先日とある若い女性と縁があって食事に誘ったところで、ちょっとした”へま”を私がやらかしたからだ。「僕の家の近所にある、おすすめの饂飩屋さんか、または美味しい担々麺屋さんに一緒にどうですか?」とスマホの文面で問うたところ、彼女は「すみません、麺類があまり得意でないので…定食系でいいお店知りませんか?」と返してきた。と言っても、私にはおすすめの定食屋のレパートリー(手札)がひとつもないではないか…。その女性との文面のやりとりはいまひとつ盛り上がらぬまま、デートの機会は消滅した。その反省もこめての、定食屋の新規開拓である。

いかにも民家を改造した風の、ガラス張りの引き戸をゆっくり開けて店内に入ると、やはり若い女性客ばかりで混雑していた。かろうじて空いていた一つのテーブル(二人掛け)に私は案内されたが、すぐ隣の席ではランチ中のOLらしい女性二人組が、恋愛話に花を咲かせていた。

一方の女性が、「この調子でいくと、私ずっと彼氏できないままだと思うんですよね…」と話すのが、ふと私の耳に聴こえてきた。おりしも店内では、ひと足はやいクリスマスソングが流れている。
私は俄然、この女性二人の会話に興味をもち、注文した「鯖の味噌煮定食」を待ちながら彼女らの恋愛話を聴こえる範囲で聴いてみることにした。

その女性(三十歳手前くらいだろうか)は、同じ職場の男性Aさんに好意を寄せているが、
「告白して何もかも終わってしまうより、好きな気持ちで(A氏を)ずっと眺めていたいと言うか…。私の中で言ってしまえば”推し”なんですよね」
と、向かいの女性(おそらく同じ職場)に言った。恋愛において”推し”という、いわば相手を応援しつつもそれ以上の関係は一切望まないスタンスを貫こうとしている時点で、彼女は恋愛においてかなり弱者的立場に置かれている人なのだろうと想像できた。
しかもAさんに告白しても100%自分が振られることを前提にしている、その根拠は一体どこにあるのだろうか…。実際に告白してみなければ、結果は分からないではないか。

私は運ばれてきた鯖の味噌煮に箸をつけはじめた。女性は会話をつづける。
「○○さん(同僚のほかの女性?)は、あまりそういうの気にしないタイプと言うか…」

(つづく)

 

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