文学

チョココロネのパンと、あの誰もが知るお菓子(2)


女性がグラマラスな美女ではなかった以上、女性とパン屋の関わりは違和感どころか、むしろ相応しいものになってしまったわけで、興味を失った私はパン屋には入らずにその場を立ち去るべきであった。しかしわざわざ交差点から引きかえしてきた私の心には少しばかり、パン屋自体への好奇心が残されていた。その僅かな光を信じ、目の前のパン屋の狭そうな店内に思いきって入ってみることにした。

店の奥のレジには、もう六十か七十を過ぎたと思われる、矍鑠たる女性が一人立っている。私はトングを手にしてパンを選びだしたが、始終女性からの視線を感じて息苦しかった。

目の前の棚には、チョココロネが一個、メロンパンが一個だけ並んでいた。夕方四時を過ぎているせいか、こういったメジャーなパンは残りわずかになっているようだ。

私は妙なものを見つけた。そのチョココロネの先端の、チョコの見える円形の穴に何故か、あの誰もが知る国民的お菓子”コアラのマーチ”が一個、ちょこんと付けられているのである。どうもこの店のチョココロネには変わったルールがあって、必ずコアラのマーチが一個おまけとしてついてくるようなのだ。
(これはいったい、どういう演出なのか…)

私は首をかしげたくなるような、しかしどこか微笑ましい気分になって、その最後のチョココロネの一個を自分のトレーに載せた。ついでに、メロンパンの終わりの一個も載せた。

トレーをレジに持っていくと、先ほどの矍鑠たる女性が「一七〇、一五〇…」と値段を打った。昔ながらのレジスターの、緑色の画々とした数字が私からは見えた。彼女は「今日はパンの日ですから、ここから二割引きで…」と言った。私は店前に立っていた「パンの日」と書かれたのぼり旗を思い出した。パン二個で三百円弱。こんな安くていいのか、といった会計になってしまったが、女性の声のトーンにはどこか頑固そうなものが漂っていた。その気丈そうな性格が、もしかすると安い値段でも店を継続していける秘訣であろうかと、私には思われなくもなかった。

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