文学

時代錯誤な女

駅前を歩いていたら、雑踏の中に一人、あきらかに人目を引く女が居た。

まるで平安貴族のごとき恰好をしていた。和風の白い羽織を上にまとい、下には黒っぽい袴のようなものを穿いていた。

足元には高下駄(歯の高い下駄)でも履いているのか、と思ったが、そこはなぜか洋風の靴だった。しかし黒いブーツのごとき、ちょっと見たことがないような型の靴で、そこにも彼女なりのこだわりを見せているようだった。

現代人が多数行き交う駅前において、そんな服装の女が一人歩いているのだから、目立たないわけがなかった。これからお茶や華道の稽古に行く感じでもなし、かといってコスプレのパフォーマンスにも見えず…むしろそれが彼女の日常的な服装なのではないかと看てとれた。

むかし、私が中学の頃、学校の古文の若い女性の先生が、古典の世界への憧れのためか、いつも洋服に香を焚きしめていた。教室や廊下ですれちがうと、香水ではない独特な香りがほのかにただよい、ひそかに私は胸ときめかせていたものだったが…。

駅前で見かけたその平安時代風の若い女性については正直、「時代錯誤もはなはだしい女だ」という感想以上のものは何も浮かばなかった。